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抜けた歯が多い人は認知症になりやすい

(2017年3月) "Journal of the American Geriatrics Society" に掲載された九州大学の研究で、歯が抜けた本数が多い人は認知症になりやすいという結果になっています。

研究の方法
60才以上の日本人男女 1,566人を対象に、残っている歯の数(*)などを調べ、その後5年間にわたり認知症の発症状況を追跡調査しました。
(*) すぐにも抜けそうな歯は残り本数に含めなかった。
結果

追跡期間中に180人が認知症になりました。

残っている歯の本数が20本以上のグループに比べて、残り本数が10~19本のグループでは62%、1~9本のグループでは81%、そして歯がまったく残っていないグループでは63%、それぞれ認知症になるリスクが増加していました。

アルツハイマー病になるリスクと歯の残り本数との間にも同様の関係が見られました。

これまでの研究

これまでにも複数の前向き研究(追跡調査を行う研究)で今回と同様の結果になっています。 歯が抜けているのに入れ歯を使用していない場合に認知症のリスクが増加するというデータもあります。

他にも、次のような結果になった研究があります:
  • 抜けた歯の本数が多い人は軽度認知障害(認知症の一歩手前)のリスクが高い。
  • 歯の残り本数が少ないほど記憶力テストの成績が悪い。
  • 歯を毎日磨かないと認知症になるリスクが増加する。
  • 歯周炎の人は認知症になるリスクが高い。
  • アルツハイマー病患者の脳から10人に4人の割合で歯周病菌の痕跡が見つかった。 健常者10人の脳からは痕跡が見つからなかった。
  • 歯周病があるアルツハイマー病患者は認知機能の衰え方が激しい。
  • ネズミの歯を抜くという残虐な動物実験において、歯を抜かれた可哀想なネズミに記憶力と学習力に障害が生じた。 抜かれた歯の本数が多いほど、脳の神経細胞の損失量が多く、海馬(記憶に関与している脳の領域)の損傷が大きかった。
考えられる理由
歯の残り本数が少ないと認知症のリスクが増加する理由として、次のような可能性が考えられます:
  • 歯周病の原因菌に対して生じる慢性的な全身性の炎症。

    口内細菌は、歯茎などから血流中に入り込むことで体の他の部分に移動します。 口に存在する有害な細菌やウイルスが体の他の場所に広がると、そこで炎症が生じて病気の原因になると考えられます。
  • 歯周病による脳卒中リスクの増加(認知症の中には脳卒中がリスク要因となるものがあります)。
  • 口腔内に存在する細菌が一時的な菌血症(本来は無菌であるはずの血流中に細菌が存在する状態)によって脳にまで拡散する。
  • 口腔内に存在する細菌が三叉神経を通って脳にまで達する。
  • 自前の歯の本数が少ないために特定の食品を食べておらず、その中に記憶力の維持にとって有益なものが含まれている。 例えば、ビタミンBの不足は歯牙喪失(歯が抜けること)と認知症どちらの原因ともなります。
  • 自分の歯を失うことで、歯から脳に送られる感覚信号が減少し、そのために脳の機能(記憶力など)に悪影響がある。

    入れ歯ではない自分の歯は、顔の感覚や咀嚼などの動作を司る神経を経由して脳に信号を送ります。 人工の歯は、食事をするときには役立つものの、本来の自分の歯を顎と結びつけている神経と歯根膜を備えていません。 そのため人工の歯では、歯を通して脳へ入力される感覚情報の量が減少している可能性があります。
対策
歯を失わないためには歯周病の予防が大切です。 歯周病は認知機能だけでなく、心臓・血管・腎臓など全身の健康に悪影響を及ぼします。 米国歯周病学会では、歯周病を予防する対策として以下を推奨しています:
  • 禁煙する。
  • 毎食後に歯と舌をブラッシングする。
  • 1日に1度は、デンタル・フロスとマウスウオッシュを使う。
  • ビタミンCを豊富に含む食事をする。
    ビタミンCはオレンジ・レモン・グレープフルーツなどの柑橘類のほか、緑色の野菜(ピーマン・ブロッコリー・キャベツなど)や、トマト、ジャガイモなどに豊富に含まれています。
参考までに今回の研究では、追跡開始の時点で歯の残り本数が少ない人に次のような傾向が見られました:
  • 喫煙習慣がある。
  • 飲酒習慣がない。
  • 高血圧である。
  • 歯科医で定期的に診療を受けていない。
  • 歯磨きの回数が1日2回未満である。