ジカ熱で死亡した米国人にまつわる2つの不可解な点

(2016年9月) 今年の6月に米国で1人の患者がジカ熱というシマ蚊が媒介する感染症により死亡しましたが、この死亡に関して不可解な点が2つあることをユタ大学の研究チームが "New England Journal of Medicine" に報告しています。

不可解な2つの点
1つ目は、そもそも何故ジカ熱で死亡したのかという点です。 成人の場合、ジカ熱が重症になることすら稀で、死亡するなどということはほぼ考えられません。
ジカ熱は胎児の脳に深刻なダメージを及ぼしますが、成人では症状が軽いのが一般的で、これまでに報告されているジカ熱による死亡は世界全体でわずか9件です。
2つ目は、死亡した患者を病院に見舞いに行った人もジカ熱に感染したという点です。 この見舞いに行った人には、ジカ熱に感染する要素が見当たらなかったのです。
米国でもフロリダ州ではジカ熱が発生していますが、見舞いに行った人はジカ熱が発生していない地域に住んでおり、ジカ熱が発生している地域を訪れたこともありませんでした。
経緯
1人目の患者
ジカ熱により死亡した1人目の患者(以下「患者1」)は73才の男性で、昨年の5月にジカ熱が発生しているメキシコ南西部を3週間旅行し(*)、そこで蚊に刺されました。 患者1が旅行から戻って8日目に腹痛と発熱が始まり、ユタ大学病院に入院する頃には、眼の充血・涙目・血圧低下・心拍数の増加などが生じていました。 そして、入院後に行われたリアルタイムPCR検査の結果、患者1の症状がジカ熱によるものである可能性が示されました。
(*) アブストラクトによると 2003年にメキシコから米国に移住してきたということなので、里帰りだったのでしょう。 アブストラクトには、患者1が前立腺ガンのための放射線治療を1ヶ月前に受けていたともあります。

医療スタッフが最善を尽くしたにも関わらず、患者1の容態は急速に悪化しつつありました。 そんなときに、2人目の患者(38才の男性。患者1の息子。 以下「患者2」)が患者1の見舞いに病院を訪れました。 患者2は、患者1の涙を拭ったり、患者1がベッドの上で姿勢を変えるのを手助けしたりしました。 患者2は、(感染防止用の)グローブを付けていませんでした。

それから間もなくして、患者1が敗血症性ショックを起こして死亡しました。 死後に行われた検査により、患者1の死因がジカ熱(*)であることが確認されました。
(*) 遺伝子的な検査によると、患者1のジカ熱を引き起こしたジカ・ウイルスがメキシコ南西部の蚊が媒介するものである確率は99.8%。
2人目の患者

患者1が死亡してから7日後に、ユタ大学医学部のスワミナサン教授が患者2と面談していたとき教授は、患者2の眼が充血して涙目になっていることに気付きました。 眼の充血と涙目はジカ熱の一般的な症状です。

そこで患者2を検査したところ、教授が思ったとおりジカ熱に感染していました。 ただし幸いにも患者2は症状が軽度で、翌週のうちには症状が治まりました。

患者2がジカ熱だったのは意外でした。 というのも、ジカ・ウイルスを媒介する蚊はユタ州では見つかっておらず、さらに、患者2はジカ熱が蔓延している地域を訪れたこともなかったからです。

解説

ジカ熱は、蚊に媒介される以外に性的な接触によっても感染することが知られていますが、今回のケースでは、患者2が患者1の汗や涙に触れることによってジカ熱に感染したのだと考えられます。

そしてそれは、患者1の血液中に通常の10万倍という異常に大量のジカ・ウイルスが存在したのが原因かもしれません。 患者1の体がジカ・ウイルスに圧倒されてしまったために、ジカ・ウイルスが通常ではあり得ない感染力を発揮した可能性があります。

ただ、そもそも患者1のジカ熱なぜ重症化したのかは不明です。 この患者の体の状態に、ジカ熱が重症化しやすい要因があったのかもしれませんし。 また、患者1に感染していたジカ・ウイルスと他のジカ・ウイルスとでは、遺伝子的にわずかな違いがあるだけでしたが、その少しの違いによってジカ・ウイルスが凶悪化したのかもしれません(*)
だとすれば、2人目の患者が軽症だったのが不思議ですね。